第55章 柱稽古
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「次の方、こちらをどうぞ。」
隊「あ、ああ…どうも……。」
夕餉を受け取る隊士達は、居間に座りながら大きな目をじぃっと向けている杏寿郎に冷や汗を垂らしていた。
そしてその視線とこの提供スタイルから、菫が杏寿郎に大事にされている事を察したのだった。
しかし、杏寿郎は剣士にも隠にも大変優しい事で有名だ。
『婚約者なのかもしれない』と思う者は勿論おらず、『特別なのだ』と思う者さえもいなかった。
眼力で精一杯圧力をかけても、自身の良い噂が足枷となってしまったのだ。
杏(あまり良い空気ではないな。菫を見る目が危うい者もいる。)
杏寿郎はやれる事はやったと判断すると腹を括った。
杏「聞いてくれ!!!」
杏寿郎の屋敷を震わす大きな声に杏寿郎以外の皆が肩を跳ねさせた。
その声は既に部屋に入ってしまった者の元までも届いている。
杏寿郎はまた、すぅっと息を吸い込むとパッと口を開いた。