第54章 嫉妬
「…っ」
菫は勢い良く杏寿郎の胸に飛び込んでしまった。
「す、すみませ…、」
慌てて頬を染めながら体を離そうとする。
が、やはり杏寿郎はそれを許さずにきつく抱き締めた。
杏「頼む。逃げないでくれ。どうしても追ってしまう。特に今は自制心が弱まっている。」
杏寿郎が素直に自身の状態を吐露すると、菫は赤くなったままこくりと頷いた。
そうして暫く無言で抱き締められていると、ふーっと杏寿郎が大きく息を吐いた。
そしてバッと身を離す。
杏「うむ!!もう大丈夫だ!!それでは鍛錬に戻るとしよう!!!」
声量から察するにまだ何かしら普通ではないのだろうと思いつつ、菫は肩の力を抜いた。
「…頑張って下さいませ。」
そう小さな声で言いながら、菫は『逃げれば追われる』という事を学んだのだった。