第53章 遊郭に巣食う鬼
しかし今更そうしても遅い。
天元は嬉しそうに笑っていた。
天「婚約したばかりなら恥じるこたぁねぇよ。」
杏「…俺は逆上せているように見えるだろうか。」
杏寿郎が真剣な顔で問うので天元は少し呆れたような顔をした。
天「だから何もおかしくねぇって。お前はそのくらいで良いんだよ。人間らしくいさせてくれる奴を大事にしないと、本当に人間じゃなくなっちまうぞ。」
杏寿郎は思うところがあったのか素直に『そうだな。』と頷いた。
杏「俺は君を少し誤解していた。ただ揶揄われていたのかと思ったが、気に掛けてくれていたのだな。悪かった。」
そう真っ直ぐ言われると天元は居心地悪そうにする。
そして、『嫁が待ってるから俺も早く帰るわ。』と言い、杏寿郎が去る前に帰ってしまった。
杏(……そう言えば妻が三人もいたのは何故なんだ。)
そうして杏寿郎は一人首を傾げたのだった。
――――――
「杏寿郎さん…っ」
菫は門の外で待っていて、杏寿郎の姿が見えると駆け寄って勢い良く抱き着いた。
そんな大胆な行動に驚きつつ、杏寿郎は柔らかい笑みを浮かべて抱き締め返した。
杏「ああ、やっぱり此処が俺の帰る場所なのだな。」
「…え?」
菫が身を離そうとすると杏寿郎は抱き締め直す。
杏「只今帰った。」
その言葉を聞くと菫は目を閉じて杏寿郎の胸に耳を当てた。
「お帰りなさいませ。…お待ちしておりました。」
杏寿郎の心臓は今日も力強く脈打っていた。