第52章 誕生日、そして二人の時間
杏「だが、俺はそれを望まない。俺を喪っても君には引き摺って貰いたくない。だから付ける。俺は死して君を縛らないよう、君の元へ生きて帰ってくる。必ずだ。」
杏寿郎の固い決意と自身を思い遣る心に、菫は鼻の奥がつんとなった。
「はい。絶対に外しません。」
俯いて涙を落としてしまった菫に杏寿郎は笑い、顔を上げさせた。
杏「なので、俺にも付けてくれ。君は無茶をするので俺は気が気でないんだ。」
そう言って箱に入っていたもう一つの指輪を指差す。
菫は黙って頷くとそれを手に取った。
杏寿郎の熱く大きな手を持ち、薬指にそっと通していく。
菫は揃いの指輪が互いの指に嵌ったのを見て胸がいっぱいになった。
杏「ありがとう。」
杏寿郎は礼を言いながら菫の涙を拭い、そのまま指輪をした手で濡れる頬を包んだ。
菫はそんな手に自身の手を重ねると幸せそうな顔で瞼を閉じる。
そして、鬼殺隊の運命が明るい方へ進む事を心から願ったのだった。