第52章 誕生日、そして二人の時間
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「構わないけれど、何も面白いことはないと思うわ…。」
菫は杏寿郎が興味深そうに見つめる中、戸惑いながら食事の支度を始めた。
杏「いや、とても幸せな気分になる。誕生日なのだから俺が作れたら良いのだがな!」
そんな言葉に菫は相変わらずぎょっとする。
杏寿郎はそんな菫を見て明るい笑い声を上げた。
「あまり揶揄わないで下さいませ。お食事が塩辛くなってもしりませんよ。」
菫はそう眉を寄せ、杏寿郎は嫌味のない声で爽やかに謝る。
そんな平和な時間を過ごし、一緒に食事を取ると、午後の鍛錬をする前に杏寿郎は菫の自室を訪ねた。
杏「贈り物がある。」
そんな言葉に菫はパッと少女の様に目を輝かせた。
杏寿郎はその珍しい瞳を見ながら微笑み、場所を変えるとカキツバタが描かれている洒落た栞を手渡した。
杏「君は時偶薬の本を読んでいるだろう。是非使ってくれ。」
「わあ!」
菫が思わずらしくない声を漏らすほどにその栞は素敵なもので、安くはないであろう事がよく分かった。
続いて差し出したのは青い髪紐だ。