第52章 誕生日、そして二人の時間
「…ん、」
菫は目を覚ますと瞼を上げ切る前に、手のひらの熱に気が付いて頬を染めた。
そしてこっそりと横を見てみる。
杏寿郎は静かな呼吸を繰り返しながら凛々しい顔で寝ていた。
(……相変わらず俗な気配を感じさせないお顔だわ…。)
菫はそう微笑んで手を解こうとする。
しかし、杏寿郎が離してくれない。
(どうしよう。お食事を作らなくてはならないのに…。)
そうしていると程なくして杏寿郎が目を醒ましてしまった。
「あ…申し訳ありません。起こしてしまいました。」
杏寿郎は薄く瞼を開いた無防備な顔のまま、菫の頬にもう一方の手を伸ばした。
杏「食事を作ろうとしてくれたのだろう。謝る必要はない。」
初めて見る杏寿郎の表情に菫の頬は容易に染まる。
「で、では…、作って参ります。杏寿郎さんはまだゆっくりなさっていて下さいませ。」
杏「いや、」
杏寿郎はパッと上体を起こすとにこっと笑った。
杏「食事を作る君を見たい!!」