第47章 寄り道と名前
菫は杏寿郎が元々使っていた紅い色の髪紐を預かると、ぎゅっとそれを握り締めた。
「杏寿郎様、こちらを頂いても宜しいでしょうか。」
その願い出に杏寿郎は首を傾げる。
杏「構わないがどうしてだ。」
菫は許されると嬉しそうに頬を緩ませた。
「御守りにしたいのです。」
杏寿郎は『髪紐なんかで良いのだろうか。』と思ってしまったが、菫がふわふわとした空気を纏うほど嬉しそうにしているのでそれ以上は何も言わなかった。
結局小間物屋の客は見せつけられるだけ見せつけられ、菫に大した嫌がらせも出来ずに杏寿郎達を見送った。
そして、杏寿郎達は少しだけその街をぶらぶらとすると、名残惜しく思いつつも任務に備えて屋敷へ帰ることにしたのだった。
―――
杏「一時間も居られなかったが、とても楽しかった。」
「はい。」
二人は屋敷が近付き人通りが減っていくと何方ともなく手を繋ぎ、この温かな時間がいよいよ本当に終わってしまう事を感じながら会話を重ねた。
そうして歩いていると炭治郎と伊之助の鍛錬に励む声が聞こえてくる。
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
杏「行こう!鬼舞辻を斃し君を父上に紹介する為にも鍛錬に励まなければならない!」
「…はい!」
二人は少し名残惜しそうに手を離すと鬼殺隊士としての顔を取り戻してから門をくぐった。