第47章 寄り道と名前
その震える呼び声が愛らしくて、杏寿郎は堪らず菫の頭に顔を埋めると恐る恐る口を開いた。
杏「……菫。」
いつもより低い声に驚いた菫の肩が跳ねる。
続いて喉がこくりと鳴った音が聞こえた。
少し強張った体を抱き締め直し、今度は耳元に口を寄せる。
杏「菫。」
掠れ、少し震えた声を聞くと、『ずっとそう呼びたかった。』と言われた気がした。
結局、二人は二度ずつしか名を呼べなかったが、暫くの間何度も互いに抱き締め直し、気持ちを確かめ合うように体温を分け合ったのだった。
杏「そろそろ店を見て回ろうッ!!」
杏寿郎は焦ってそう大きな声を出した。
耳が弱い事を失念したまま耳に頬擦りをしてしまった所為で、菫がいつかの夜のように甘い声を出したからだ。
「は、はい…。」
二人は顔を赤くさせながら大通りへ戻った。