第47章 寄り道と名前
「杏寿郎様…、お外では」
杏「では、今だけでも様を取ってくれないか。」
杏寿郎はそんなずるい事を言った。
菫は眉尻を垂らして杏寿郎を見上げた。
「で、ですが、今も随分と気安く呼ばせて頂いているもの…。これ以上は…、」
そう言って頑なに断ろうとすると杏寿郎は眉尻を下げてしまう。
「………………………………。」
菫は弱りに弱ったが、ぐっと眉を寄せると杏寿郎の手を握って大通りから小道に入った。
そして人が居ない事を確認すると、視線を落としたままゆっくりと振り返って小さく息を吸う。
「………………杏寿郎、さん。」
俯きながらそう呟いた菫を杏寿郎は優しく抱き寄せた。
杏「もっと呼んでくれ。」
菫はカッと頬が熱くなるのを感じ、目をぎゅっと瞑って抱き締め返すと、杏寿郎の胸に額を押し当てた。
「……………杏寿郎さん…。」