第43章 対話
杏「昔の君はどんなだったんだ。」
試しにそう質問してみると菫は杏寿郎の顔に視線を戻した。
「今と違う所を挙げるならまず、声…でしょうか。」
菫は鬼殺隊に身を置くようになってから、女としての一面を仲間に見せると厄介な事になる事を学んだ。
そして、まず声をなるべく低くするように努めたのだ。
と言っても声質をがらりと変えることは叶わず杉本のように気に入られてしまう場合もあったが、それでも『この女は手強そうだ。』という印象を植え付けられる程度の効果はあった。
杏「声、か。」
杏寿郎はその時、箏を弾いた時の菫の唄声を思い出した。
確かに普段と雰囲気が違っていたからだ。
そして杏寿郎は、『多少の違いだろう。』と思いつつ口を開いた。
杏「昔の声音で俺の名を呼んでくれないか。」
「え……、」
菫は何となくこそばゆくて少し眉尻を下げたが、『意識しすぎてまた気まずい空気になりたくない。』と思い直すとすぐに頷いた。
そして、小さく咳払いをして喉の力を抜く。
『……………杏寿郎様。』
杏寿郎の背中にしびびっと電気が流れた。
口角を上げたままフリーズしてしまった杏寿郎を菫は窺うような目で見つめる。
「……偽っていて申し訳ありませんでした。」
他に心当たりがなくてそう謝ってみたが杏寿郎は動かなかった。