第42章 恋仲
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杏(いつか暴走してしまいそうで恐ろしいな。)
杏寿郎は箸を止め、ちらりと菫を盗み見た。
菫とはあれから若干ギクシャクとしてしまっている。
杏(もうすぐ風呂の順番が回ってくるだろう。体と共に気持ちもさっぱりとして、関係を戻す切っ掛けになると良いのだが。)
そう思ってからハッとする。
杏(風呂上がりの菫さんと密室で寝ても良いのだろうか。)
口付けでさえ婚姻前にするつもりが無い杏寿郎だ。
勿論、おかしな事は考えていない。
だが男である以上、どうしても多少は意識する。
もう一度ちらりと菫を見ると、菫も何か考え込んでいるようでずっともぐもぐしていた。
(……………………。)
実際のところ菫はあまり考え事をしていなかった。
ただ、頬に口付けられた時の事を繰り返し思い出してしまっていたのだ。
(額に口付けし合った事ならある。でも…、)
確かに額になら経験があるが、頬にされた時と比べると顔の位置が随分と異なる。
菫は食事に視線を落とした。
(…私……いつか杏寿郎様に心臓を止められてしまうのではないかしら…。)
菫はぼんやりとそう思ったのだった。