第42章 恋仲
(杏寿郎様は…私が口付けしようとしていたと思って…、その後、受け入れようと…されてた……。)
菫が無言のまま耳を赤くすると、杏寿郎もその考えを察して赤くなった。
杏「いや、君が望むのなら受け入れるつもりだったが、まだ婚姻前だ!俺からは手出ししないので安心してくれ!!」
菫はそれを聞くと、少しだけもやりとした感情を覚えて手から眉尻垂らした顔を上げる。
「手出し…されないのですか……?」
意味を持たせず、ただ聞き返しただけのつもりだった。
しかしその声が思ったよりも寂しそうな声色になってしまって目を見開いた。
見れば杏寿郎も目を丸くしている。
「あ、いえ…、」
菫が赤くなって視線を落としながら離れようとすると、杏寿郎は思わず腕を掴んで引き留めた。
杏「……今のは君が悪いと思うぞ。」
そう言うと杏寿郎は眉を寄せながらぐっと顔を近付け、唇に口付けようとした。
しかし――、
杏(…恐らくさっきの言葉に他意は無い。本当にこれで良いのか。)
そんな考えが過ると額にビキッと青筋が立つ。
杏寿郎は険しい顔をして堪えると、優しく触れるだけの口付けを頬に落とした。
「…………す…、すみませんでした……。」
蚊の鳴くような声で謝罪した菫は、途中まで杏寿郎が唇にしようとしていた事に気が付いていた。
杏寿郎も菫の動揺ぶりを見ればそうであったのだとすぐに分かった。
杏「いや…、俺の方こそすまなかった。」
そう短い会話を交わすと二人は互いに俯いて顔を真っ赤にし、そのまま暫く固まってしまったのだった。