第42章 恋仲
(家族は鬼の事について知っていて、理解してくれていて…、鬼はいなくなったから私ももう杏寿郎様を敬愛し続ける理由が無くなった。じゃあ…、)
そう思うと恐る恐る杏寿郎に視線を戻す。
杏寿郎は静かに菫の決断を待ってくれていた。
「……あの、…………私…、」
怖気付いたその時、五年前から家族のように支えてくれた圭太の顔が浮かんだ。
そして、杏寿郎が家族と和解出来るように動いてくれ、自身を『明るい方へ導いてくれた』事に気が付いた。
(…圭太さんの言う通りだわ。俊彦さんだけではきっと家族の元へ戻りたいと思えなかった。家を出たのは事実だから許されないと。でも…、)
菫は握られていない方の手を杏寿郎の手に重ねた。
(………この人とあの家へ帰りたい……。)
そう思うと菫の目から温かい涙が溢れた。
「私…、五年前から貴方の事をお慕いしていました。ずっと、敬愛していてもどこかで苦しかった。矛盾する気持ちが大きくなって……わっ」
菫が言い終わらないうちに杏寿郎は菫の肩を抱き寄せた。
杏「………………。」
『そうか。』では味気ない気がし、『嬉しい。』では足りない気がし、杏寿郎は言葉を詰まらせた。
菫は目を丸くした後、涙を溢しながら微笑み、杏寿郎の体を気遣いつつ優しく抱き締め返した。