第40章 無限列車―其の弐
「………………駄目です…。…駄目、駄目です。」
そう呟いて地面を引っ掻き土を握る菫の元に俊彦が近寄ってきた。
俊「見ない方が良いと言ったでしょう。早く避難を、」
「見届けます。放っておいて下さいませ。」
俊彦は菫の酷く冷たい声に閉口した。
一方、肋骨が内臓に刺さってしまったのを感じた杏寿郎は、呼吸で胸の筋肉を強化させ、それ以上食い込ませないように努めていた。
猗「そんな事は無駄なんだよ、杏寿郎。」
猗窩座はそう言うと、敢えて杏寿郎を肉体的に追い込もうと胸に拳を振るう。
杏寿郎はそれを刀で防いだが受け流す際に少し掠ってしまった。
杏「…ッ……不知火!!!」
その時だった。
杏寿郎の胸、正確には胸ポケットを掠めた猗窩座の拳は菫の御守りを裂いていた。
そして、散らばった増血剤が斬られて剥き出しになった猗窩座の血管に触れたのだ。
増血剤と言っても勿論輸血のような即効性は無い。
鉄分を補うことで出来る事は、赤血球中に含まれるヘモグロビンの生成を促す事だけだ。
貧血が治るなどの小さな効果でさえ出るまでには一週間程度掛かる。
菫はそこまでの知識を持っておらず、ただ血が増えるのだと思って杏寿郎の御守りに入れた。
しかし、それが功を奏したのだ。