第39章 無限列車―其の壱
菫は杏寿郎が教えてくれた師範の家に転がり込むと懸命に鍛錬を重ねた。
しかし、元々運動が苦手であった菫は良い成果を得られなかった。
師範はそんな菫を黙って育てていたが、ある日とうとう菫にこう問うた。
師「お前、家出をしてきたんだろう。何故家族に快く送り出されただなんて言ったんだ。」
「………え…?」
菫の表情は固まった。
思い返せば何故、夜中にこそこそと家を出たのだろうか。
何故便りの一つも出さないでいるのだろうか。
「………………。」
黙りこくる菫を見た師範は溜息をついて追求を止めた。
そして、その晩、菫は魘夢の言葉を思い出してしまった。
(快く送り出されてなんかいなかった…。私はただ淡い恋心を抱いて家出をしてしまったんだわ…。でも…家へ引き返せば蓮華が殺されてしまう…!私は…、)
その時、杏寿郎を慕う気持ちは不安定な恋心から強い敬愛へと変わった。
後戻りは絶対に出来なかったのだ。
その感情は時が経てば経つほど強く固くなり、菫はとうとう自身の本当の気持ちを完全に見失ってしまった。