第39章 無限列車―其の壱
魘「…なるほど、一度鬼狩りに助けられてたんだ。ふふ、その時その鬼狩りに恋をして追い掛けたいだなんて想いを持ったんだね。面白いなあ、こんな非力でなれる筈もないのに。でも俺は優しいから…希望を持たせてあげよう、素敵な夢を見せて。」
魘夢は笑いながら菫の夢を操る。
そして、夢の中の菫に語り掛けた。
魘「でも――、挫折して鬼狩りになるのを諦めたり、夢の存在に気が付いたなら、君は妹の元へ戻ってくるだろう?そうしたら目の前で大切な妹を殺してあげる。君が自責し絶望するように仕向けて殺してあげる。君はどんな顔をするのかなあ。」
愉しそうにそう言うと菫から手を離した。
そして魘夢が去ってから暫く経った後、菫の姿を見付けた鬼殺隊士が慌てて菫を抱え上げ、世話になっている藤の花の主人の元へ連れて行ったのだった。
「……あれ…、」
菫は気が付いたら屋敷の自室へ帰っていた。
ベッドから起き上がると藤の花の香り袋が胸の上から転がり落ちる。
菫はそれを誰が置いたのか、誰が自身を此処へ運んだのかなど考えもせず、ただ拾い上げるとぎゅっと胸に抱いた。
その顔には笑みが浮かんでいる。
「蓮華が前々から俊彦さんをあれ程慕っていたなんて…。それに、お父様もお母様も快く承諾して下さった。私、煉獄様の元へ行けるんだわ。早くお力になりたい…!」
夢と現実が混ざってしまった菫は瞳を輝かせていた。
それは想いを寄せる男を考えている瞳だった。
そして菫ははやる気持ちを抑え切れず、夜のうちに誰にも告げずこっそりと家を出たのだった。