第38章 自覚
(それは……、どうして?)
―――勿論、杏寿郎様が心から敬愛する御方だから。
すぐに返ってきたいつもの答えに俯く。
「もう―――、」
その時、玄関で物音がした。
菫はパッと顔を上げると玄関へ走る。
まだ日は傾いてきたばかりだ。
鬼さえ出てこないのだから杏寿郎が帰ってくる筈がない。
菫は玄関の戸を開けてからその事に気が付いた。
「…………………………。」
菫は無人の玄関を見つめると呆然としてしまった。
(どうしてこんなに心が乱れるのだろう。杏寿郎様はお強いのに。敬愛しているのなら信じられるでしょう…。)
そう思うと視線を落としながら戸を閉める。
(じゃあ……、)
何度も浮かぶ杏寿郎の明るい笑顔。
でもそんな笑顔ばかりでない事を知っている。
笑みを消した顔も、頬を染めた顔も見た。
自分は額に口付けられて顔を赤らめた杏寿郎をどう思っただろう。
(あの時――、一拍遅れて尻餅をつく前、あの表情に酷く惹かれた。)
炎柱でない杏寿郎に強く惹き付けられた。
(それは……、)
―――分かってる。ずっと分かってた。
「私は…杏寿郎様を…………慕っている。男性として見ている。………愛しているんだわ。」