第38章 自覚
―――『――アゲル。……―してあげる。』
(…………何を……?)
菫がそう考えようとした時、杏寿郎が体を離し額を合わせた。
顔の近さに菫の頬が染まる。
「きょ、杏寿郎さ、」
杏「必ず戻る。なので君もきちんと此処で待っていてくれ。」
菫は目を見開いた後、杏寿郎の両頬に手を伸ばし目を瞑った。
「分かりました。必ずお待ちしております。」
そう固く約束したが、杏寿郎はその晩帰ってこなかった。
―――
「要さん、少し重いけれどお願いできますか…?」
買い物から帰ってすぐに握り飯を拵えた菫は、昨晩に続き同じ現場で任務に当たっている杏寿郎の為に要へ頭を下げた。
要「カァ!!」
要は任せてくれと言うように元気な鳴き声を返した。
「ありがとうございます。『ご武運を。』ともお伝え下さい。報せを届けてくれて有難う御座いました。」
菫は要が好んでいるという豆を与えると、羽ばたく姿を見送った。
そして、杏寿郎が居ない屋敷で過ごしているうちに、『これが続けば耐えられなくなる』という気持ちが大きくなっていった。