第36章 変化
「よく、分かりません。ただそうしたいと思いました。」
杏寿郎は満面の笑みを浮かべたくなるのをぐっと堪えた。
菫が無意識のうちに惚れてくれているのではと思ったからだ。
しかし、それを自覚させる事はやはり叶わない。
先に鬼を斬らなければならないのだ。
杏「そうか。気にしなくて良い。戻っておいで。」
杏寿郎の柔らかく温かい声音に緊張が解れ、菫は引き寄せられるように杏寿郎へ近寄った。
杏寿郎は菫が手元に戻ってくると優しく抱き寄せ、にっこりと微笑みながら驚いている菫の顔を見下ろした。
杏「お礼だ!」
そう言うと元気な笑顔に反して優しい優しい口付けを菫の額に落とした。
菫は目を見開くと、先程の杏寿郎と同様にぶわっと顔を赤くさせた。
その様子を見た杏寿郎は楽しそうに声を上げて笑う。
「……………………。」
するといっぱいいっぱいになってしまった菫は、眉を寄せて赤い顔のまま杏寿郎の左頬を優しく摘んだ。
「と、歳上を揶揄うんじゃありません。」
随分と距離の近い扱いに杏寿郎は頬を摘まれたままきょとんとしてしまった。