第36章 変化
手が頭から大きな背へと移る。
(体が大人になる前に、精神的に大人にならなければならなかったんだわ。初めて出会った時にもお父様との関係は拗れていたのかしら。全く分からなかった。只々使命の為に命を懸ける姿が尊いとしか…。)
菫はその尊いものが人間味を帯びた事に気が付いた。
尊さの裏にある事情を知り、葛藤があったであろう事も察した。
杏寿郎を本当の意味で人間として見始めていた。
それが悪い事のようにも思え、慈愛や不安が入り交じる感情を抱きながら杏寿郎を強く強く抱き締めた。
「きっと出来ます。杏寿郎様、お二人の願いを叶える方法があるのです。」
杏寿郎はその方法に希望を抱きたくて、菫の体に恐る恐る腕を回した。
菫を抱き締めるのは菫の誕生日以来、約四ヶ月ぶりであった。
杏「それは是非とも知りたい。教えてくれるだろうか。」
そう言われると菫は体を少し離し、とても優しい笑みを浮かべて杏寿郎を見つめた。
「鬼が居なくなれば良いのです。私は聞いた事があります。今の柱の方々は飛び抜けてお強いのだと。」
それを聞いた杏寿郎は一瞬目を丸くした後、眉尻を下げて楽しそうに笑った。