第35章 父と息子
杏「………。」
杏寿郎は表情を消すと散らばってしまった酒瓶の欠片を拾い始めた。
杏「……子供が触って怪我をしてしまったら大変だからな!」
その声音は明るかったが、顔には依然として何の感情も浮かんでいなかった。
―――
「お帰りなさいませ。」
杏「うむ!只今帰った!!」
菫はもうすぐ帰ってくるような気がして三十分程前から外で待っていた。
そして、懸念した通り杏寿郎の頬には傷がある。
「…付いてきて下さいませ。」
菫は口角を上げたままの杏寿郎を見て苦しくなった。
杏「ああ、新しい薬を用意してくれたのか!君の薬は本当によく効くからな!助かる!!」
「少しでもお役に立てていたのなら光栄です。」
そう会話をしながら菫は薬を保管していた自室へと向かった。
(…………。)
「お入り下さい。」
菫は少し迷ったが、杏寿郎を自室へ招き入れた。
何となく今は杏寿郎を "表の場所" に置いておいてはいけない気がしたのだ。
杏「………。」
その気持ちが伝わったのか、杏寿郎の顔から笑みが消えた。