第35章 父と息子
千「は、はい…。」
槇寿郎は弱々しい返事をする千寿郎を睨む。
槇「早く中に入れ。 "それ" と話すな。」
千「そんな…一年ぶりに帰っていらし」
槇「早くしろ!!!」
千寿郎は涙を滲ませて杏寿郎を見上げる。
その視線に気が付いた杏寿郎は優しく明るい笑みを浮かべた。
杏「今夜は冷えるからな!早く中に入ると良い!!また来るのでその時ゆっくり話そう!!」
そう朗らかな声で言うと成長を確認するように弟の頭をしっかりと撫でる。
千寿郎はぐっと堪えるような顔をした後、俯いて小さく頷いた。
杏寿郎は千寿郎が門の中に入ったのを見届けると槇寿郎と視線を合わせた。
槇寿郎は千寿郎と入れ替わる形で門まで歩いてくる。
杏「………。」
真っ直ぐ見つめてくる態度も癇に触ったが、何よりも身に着けている羽織りが気に入らない。
槇「お前なんてすぐに死ぬぞ。大した才能もない癖に思い上がるな。」
杏「そんな俺でも救える命があります。少しでも救えるのなら」
槇「帰れ。二度とその面見せるな。」
槇寿郎はそう言うとバンッと門扉を閉めてしまった。