第34章 詰められない距離
―――
「………。」
菫は早朝に目を覚ますともう一度目を瞑った。
空気が冷たい。
菫の誕生日から三ヶ月が経っていた。
(いよいよ今年も残り僅か…。無事に年を越せますように。)
菫はそう思うと目をぱちりと開け、枕元に置いてあったネックレスを身に付けて洗面所へと向かった。
(………冷たい。)
冷えに冷えている水で顔を洗い、隊服を身に着けると杏寿郎の櫛で梳いてから高い位置に髪を結う。
杏寿郎からの贈り物は菫の生活に馴染んでいた。
(そろそろお帰りになられるかしら…。)
杏寿郎は昨晩、要を遣って『朝に帰るので寝ているように。』と菫に伝えたのだ。
箒を持ってまだ誰も居ない道に出る。
(時間を掛けて掃こう。すぐにお迎え出来るように…。)
―――
杏「では俺はこれで失礼する!!」
杏寿郎は深い山奥に攫われていた怪我人二十人弱を街まで何往復もして運び終えると、疲れを感じさせない笑顔を浮かべて隠二人に挨拶をした。
それを聞いた隠達は慌てて頭を下げる。
隠「手伝って頂きありがとうございました!」
隠「お手を煩わせてしまい申し訳ございません!」
杏寿郎は笑みを浮かべながらそんな隠達の肩をぽむっと叩く。
杏「鬼を斃した後は剣士も隠も変わりない!一隊士としてするべき事を全うしたまでだ!礼を言う必要も謝る必要も無い!!」
隠「…それは……、」
隠「……。」
隠達が呆気に取られてしまったので杏寿郎は再び肩をぽんぽんと軽く叩くと、『今度こそ失礼する!!』と言って地を蹴った。
隠「……出来たお方だな。」
隠「うん…。」