第33章 誕生祝い
杏(何が引き金だったのかは分からないが、これは悪い事だとは限らない。)
そう思うときゅっと口角を上げ、未だ頭の上にある菫の腕を優しく掴んだ。
杏「俺は暴力を振るったりはしないぞ。」
菫はその言葉に眉尻を下げる。
「杏寿郎様がそのような事をなさるとは思っておりません…!」
杏「ではこの腕を退けてくれ。」
「……………………。」
菫は何か言おうとしたが、結局言葉が見つからずに腕の力を抜いた。
杏寿郎は腕を離させると、今度は優しく頭を撫でた。
俯く菫の耳が赤い。
杏寿郎はその反応を見て心が満たされるのを感じた。
杏「いつもしているだろう。一体どうしたんだ。」
本当の事は答えないだろうと分かっていたが、それでも原因を知りたくてそう問い掛けた。
「…………それは…、」
案の定、菫は言葉を詰まらせる。
杏寿郎はすぐに諦めると、仕上げのようにぽんぽんと軽く叩いてから手を離した。
杏「では冷めないうちに入るとしよう!!」
菫はあっさりと解放されると、一瞬呆然としてから慌てて『失礼致します!』と言って脱衣所を出て行った。
杏(…攻め過ぎては駄目だ。)
杏寿郎は菫の背中を見つめながら心の中でそう呟いた。
菫の敬愛心を改めさせるという事は、鬼に抵抗する菫の頑張りを無駄にするという事かもしれないからだ。
杏(清水家を襲った鬼は今も卑劣で残忍な行為を繰り返しているのだろう。)
杏寿郎は隊服の釦を外しながらそう思うと眉を寄せ、そして煉獄杏寿郎として、鬼殺隊士として、早くその鬼を斃したいと思ったのだった。