第32章 五年前の真実
杏(昔は結婚の申し入れに使ったと聞くが…これを贈ったら彼女はどう思うだろうか。)
菫は『関係を迫られない限り屋敷を出ない』と誓っている。
それ故に、ただアプローチされるだけなら許容せざるを得なくなっていた。
櫛についても似た事が言える。
杏寿郎がこの櫛に深い意味を持たせて渡したとしても、その意図を黙っている限り『関係を迫った』という明確な証拠にはならない。
つまり、菫は黙って受け取る可能性が高いのだ。
杏(あの綺麗な髪をこれで梳かしてくれるだろうか。)
そう思うと願いを込めるように櫛を優しく握った。
そうして花と櫛は決まったものの、杏寿郎はまだ満足していなかった。
菫が料理と箏と御守りという三つのプレゼントを贈ったからだ。
杏(あと一つは何にしたら良いのだろう。蝶屋敷へ行こうか…、いや、)
杏寿郎は一瞬圭太に相談しようとしたが、それよりも適任な人物がいる事を思い出すとパッと表情を明るくさせた。
―――
数日後、杏寿郎は丁重に面会の申し入れをした者の元へと向かった。