第31章 二度目の告白
「…ッ」
杏寿郎は耳を触られた菫の体がビクッと跳ねたのを感じると、くっついていたい気持ちを堪えて顔を覗き込んだ。
杏「…………。」
菫の赤い顔を見つめながら耳を撫でる。
菫は初めは体を震わせ、僅かに涙を滲ませているだけであった。
しかし、徐々に様子が変わっていった。
息が少し上がり、目がとろんとしてきたのだ。
『…………杏寿郎様…。』
出た声はとても甘かった。
菫は驚いて杏寿郎と同時に目を丸くした後すぐに眉を顰めてパッと口を押さえた。
「……………………。」
杏「……………………。」
今口を押さえても聞かれてしまった声はどうしようもない。
菫は固まって杏寿郎の出方を窺った。
一方、杏寿郎は一足遅れてやっと我に返った。
杏「……すまなかった。」
杏寿郎の頬も僅かに染まっていた。
『ただ愛らしいから』と軽い気持ちで触れた結果、聞いてはいけないような大人の女性の声を聞いてしまったからだ。
「いえ…、杏寿郎様は悪くありません。妙な声を出してすみませんでした。」
気まずい空気に包まれる。
杏寿郎は今くっついていてはいけない気がしたが、菫を離すタイミングが分からなくなっていた。
すると、それを察した菫が恐る恐る身を引いて杏寿郎の腕の中から脱出し始める。
杏「…………。」
そうして杏寿郎は咄嗟に引き止めたくなる腕を抑え、なんとか菫を手放した。
「……では、お先に失礼致します。」
杏「うむ。ゆっくり休んでくれ。」
杏寿郎の二度目の告白と耳への興味から関係が少しだけ進んだ二人は、顔を赤らめながらその日を終えたのだった。