第31章 二度目の告白
菫はちらりと杏寿郎を見上げる。
初めてこの屋敷へ来た時と比べると、杏寿郎の身長はぐんと伸びた。
もう、大人の男の体をしている。
それを確認してしまうと瞳が揺れる。
目の前の男が誰なのか、どういった人なのか、自身がどう思っていた人なのかが分からなくなる。
挙句、真正面から口付けがどうのと訊かれたのだ。
菫の頭は回らなくなっていた。
「…その、……申し訳ございません。もう一度仰って下さいませ…。」
杏「君に口付けをしたいと言った。」
今度はもっと直球な言葉が返ってきてしまった。
「………それは…お仕事でしょうか。いえ、違う事は分かっています。…ただ私は……、あの、ですが、口付けとは…、」
杏寿郎は久し振りに聞いた菫の取り乱した口調に思わず微笑んだ。
杏「愛いなあ、愛い。」
柔らかく甘い声が降ってくる。
それは歳下の青年の声ではない。
「いえ、違います。ぁ…煉獄様のご意見を否定するつもりは…ないのですが、しかし、」
杏「許してくれないのなら、せめて俺を下の名で呼んでくれないか。」
元々、杏寿郎は本当に口付けするつもりはなかった。
そして、意外にもすぐに断らない菫を見て、『他の願いなら聞いてくれるのでは。』とずるい事を考えた。
案の定、菫はその提案にこくこくと頷いた。