第30章 三人の新人
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その頃、柱達の間で自身の名が話題に上がっている事など知る由もない菫は小さく溜息をついていた。
(…煉獄様はもうおにぎりを食べて下さったかしら。今どうしていらっしゃるんだろう。恋柱様は…、)
再び何かを考えようとしてしまうと、菫は慌てて頭を振った。
(煉獄様と恋柱様がどうしていようと、ただの隠であり、ただの世話係の私が気にする事ではないわ。)
確かに一度は想いを告げられたが、『関係を迫ったりはしない。』と約束され、主従関係に戻ってから随分と時間が経った。
そして、続いているスキンシップも女性に慣れていない杏寿郎の心臓を強くする為のものの筈である。
(でも……もう女の私に随分と慣れたように思える…。触れ方も自然になったし、手を握って話す余裕も出来た。)
ではもう触れなくなるのだろうか。
そんな考えが過ぎったが、なんとなく終わらないような気がしていた。
杏寿郎が自身に触れる時は必ず嬉しそうな顔をするからだ。
それを見る度に当初の目的が霞んでくる。
(…………では、何の為に……。)
菫はその疑問から目を逸らした。