第29章 煉獄様の誕生祝い
杏「ああ、心強いな。ありがとう。」
そう言って受け取り、菫が見守る前で良く出来た刺繍をしげしげと見つめていると、御守りが膨らんでいる事に気が付いて首を傾げた。
「あ…、増血剤を入れてあります。」
杏「そうか。君らしいな!」
杏寿郎は笑って菫の頭を撫で、その御守りを胸ポケットに仕舞い込んだ。
そして目を大きく開いて不敵な笑みを浮かべる。
杏「改めて礼を言わせてくれ!ありがとう!肌見離さずに持って行かせて頂く!!」
「こちらこそ受け取って頂きありがとう御座います。」
杏寿郎の纏う空気が変わったのを感じた菫は杏寿郎が出発するのだと悟った。
急いで頭を下げる。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ。ご武運を。」
杏「うむ!!!」
杏寿郎はそう元気良く言うと、再び菫の頭を撫でてからダンッと地を蹴った。
そうして料理、箏、御守りをプレゼント出来た菫は深く息をつきながら頭を上げ、杏寿郎が去った方を見つめた。
(………半年で随分と変わった。これは良い事なのかしら…悪い事なのかしら。…ううん、そもそも何故悪いだなんて、)
そう途中まで考えると酷い悪寒に襲われる。
菫は目を見開くと良く分からない感情を振り払うように頭を振り、拳を握った。
「…当帰がそろそろ切れるわ。照子さんのお家へ行かないと。」
そうわざとしっかり声に出し、最近増えた "それ" に目を背けて屋敷へ入った。