第28章 違和感
「ご心配をお掛けして申し訳ございません。私は大丈夫ですので、お気になさらず鍛錬を続けて下さいませ。」
杏「……ああ、分かった!」
杏寿郎は心配する気持ちもあったが、想いを寄せる自分がこの場に居てはいけないのではと思い至り、素直に回れ右をした。
それと共に菫が湯船から上がる音がする。
その音を聞いた杏寿郎はぎょっとし、急いでその場を去った。
杏(菫さんは些か無防備が過ぎるのではないだろうか。)
杏寿郎はその態度に良い感情を覚えず、眉を寄せながら再び庭へ降りた。
杏(頬を染めてくれた事で楽観的になっていたのかも知れない。やはり彼女はまだ俺を男として見ていないのだろう。)
そんな考えを振り切るように髪を一本に結い直す。
そして両頬を強く叩いた。
杏(それならば意識させるよう頑張るまでだ!関係を迫らないとは約束したが、口説かないとは誓っていないからな!!)
杏寿郎はそう思うと笑みを取り戻し、再び木刀を強く握った。
(…失態だわ。煉獄様の鍛錬の邪魔をしてしまうなんて。)
菫は溜息をつきながら髪を拭き、浴衣を身に着けた。
(何だろう…頭がぼーっとする。何か変だ。何かを…見落として、)
杏「菫さん!!」
気が付くと汗を流している杏寿郎に両肩を掴まれていた。
ハッとして見てみれば二人が居るのは縁側だ。
「す、すみません。あの、」
杏寿郎は心配そうな顔をしながら、菫が今どこへ向かおうとしていたのかを見せてやった。
杏「迷い無く歩いて行くので見ていたら壁にぶつかりそうになっていたぞ。大丈夫か。」
そう心配しつつも、杏寿郎は菫が自身の告白について悩み、意識してくれていたのではと期待した。