第21章 右腕の代わり
し「今は必死のあまり、そう見える行動を取ってしまっているだけかも知れませんよ。」
杏「いや、それどころか人間として見られていなかった可能性まで見えてきた。」
そんな言葉にしのぶは首を傾げる。
すると杏寿郎は上体を起こし、しのぶを真剣な表情で見つめた。
杏「清水は俺が厠へ行くと言ったら衝撃を受けていたんだ。」
し「……なるほど。」
しのぶは笑って良いのかどうか迷った挙句、いつもの穏やかな微笑みを保ったままそう相槌を打った。
そんなしのぶの心の内を悟った杏寿郎は少し眉を寄せる。
一方、しのぶは花咲く笑顔を浮かべて両手をぽんと合わせた。
し「良いじゃないですか!今日人間だと認識してもらえたんですから。私も煉獄さんの人間らしい表情を沢山見れて少し安心しました。」
その言葉に杏寿郎は目を見開いて固まった。
確かに己の感情を律しようとする意識がとても弱まっていたのだ。
こんな事はここ三年の間ずっと無かった。
杏「…すまない。少々調子が悪いようだ。一人にしてくれると助かる。」
杏寿郎はそう言うと再び左腕で顔を隠してベッドへ倒れ込む。
し「……分かりました。」
しのぶは複雑そうな表情を浮かべると廊下に出て静かに戸を閉めた。