第21章 右腕の代わり
し「何のご冗談でしょう。ベッドの余裕はありませんのでお帰り下さい。」
しのぶは最初、菫と杏寿郎を一緒にすれば五月蝿くなるだろうと思って菫の願いを聞き入れなかった。
しかし―――、
「お願い致します。気が気でないのです。」
「煉獄様が寝ていらっしゃる間はどの様な雑用でも致します。」
「蟲柱様、後生です。」
菫はしつこくしのぶに付き纏い、とうとう許可を得た。
「煉獄様、快く承諾して下さいました。」
どれだけ自身がしつこかったかの自覚が欠落していた菫は杏寿郎にそう報告した。
そして杏寿郎はそんな事はないだろうと思いつつ、『それは良かった!』と笑った。
「負傷は腕ですね。」
側に居る事が出来ると決まった菫は落ち着きを取り戻し、杏寿郎の裂けてしまった隊服を広げた。
それに杏寿郎が頷く。
杏「左腕なら良かったのだが。」
杏寿郎が怪我を負ったのは利き腕だった。
菫は隊服を畳み直すと姿勢を正す。
「私が右腕の代わりを致します。何なりとお申し付け下さいませ。」
杏「……。」
利き腕の代わりと言ったら本当に一日付きっ切りになってしまう。
杏寿郎はどの様になるのかを想像して笑顔のまま固まった。