第16章 東京卍リベンジャーズ・佐野万次郎
そもそも、俺の存在は
アイツの痛みの元凶ですらなかった
イザナの望む幸せも
イザナの望む世界も
初めからどこにも無くて
たとえ、どんな手段を使っても
絶対に手に入れられないものだった
それを
アイツ自身は知っていながらも
心の底から求めていた
結局
黒川イザナを救える者など
この世界に誰も居なかったのだ
俺がそのことを理解した直後に
イザナは息を引き取ってしまった
呪いのような無力感と喪失感を残して逝ったのは
せめてもの復讐だったのだろうか
" 黒川イザナ " のことを思い出す度
悲しさとも、悔しさとも違う
言葉に表せない気持ちに包まれた
純粋で聞き分けのない子供のようなアイツの
気高く神聖な魂の領域
それを軽々しく侵してはならない事だけは
俺にも、よく分かっていた
鶴蝶の口から、イザナの夢の話を聞いた時
アイツの意志を継いだ新しい組織を作ろうと決めた
それが
あの時、何も出来なかった俺や
アイツを慕っていた奴らの救いになると思ったのだった
結成した組織の名は " 梵天 "
元・天竺組からは「鶴蝶の生き様を見届けたい」といった灰谷兄弟と望月莞爾も加わり
初代黒龍で " 軍神 " と呼ばれていた
元・梵の明石武臣が、後に参謀のポストに就いた
" 日本の闇を全て牛耳る "
黒川イザナの精神に忠誠を誓う為
アイツのトレードマークだったピアスの絵柄を
俺たちは全員、身体に刻んだ
裏切り者を容赦なく排除していくうちに
梵天は次第に " 巨悪 " と呼ばれ、誰からも恐れられる組織になっていった
闇の世界に身を置き、嘘と暴力と薬物にまみれた生活を送るようになってからも
俺は
レイナと交わした約束だけは律儀に守っていた