第62章 【第六十一訓】酒は憂いの玉箒でも憂いの原因は酒って話
「帰って来たな。嘘つき男」
「○○!」
銀時の声を聞きつけた○○は、大きな音を立てて『スナックお登勢』の扉を開いた。
そこには銀時とたまの姿があった。
ギロリと銀時を睨み上げる。
「ななななんでそんなに怒ってんだよ」
銀時は顔色を失う。
「なんで? 当たり前でしょうが」
昨夜、『居酒屋謙信』にて忘年会が催された。
夜の外出は断っていた○○だが、銀時によって無理やり連れて行かれた。
俺が送るから大丈夫だろ、と言って。
だが、○○がそろそろ帰ると言っても、ベロンベロンに酔った銀時は聞く耳を持たなかった。
「無事に帰れたからよかったけど」
○○は新八、神楽と共に二軒目で離脱した。
昨晩は月も星も出ておらず、銀時がいなくても問題なく帰宅できた。
「またどっかで酔いつぶれてたの?」
○○は深い息を吐いた。
酒のせいで銀時が朝に帰ることは、今に始まったことではない。
「え、や、そ、その……」
「ゴミ捨て場で寝ていたそうです」
狼狽する銀時の代わりに答えたのはたま。
「そそ、そうそう! よくゴミ捨て場で寝てんだよね、俺。無意識にゴミ人間って自覚があんのかな。ハハ……」
銀時は引きつった笑顔で自虐を述べた。
「お登勢様とは別のゴミ捨て場だそうです」
たまは付け加える。
銀時より少し前に、同じくお登勢も朝帰りをした。
彼女もまた、起きたらゴミ捨て場で寝ていたと言っていた。
「いいから! 余計なことは言わなくて!!」
「余計なこととは?」
本当は、銀時はベッドの中で朝を迎えた。衣を身に着けずに。
横には人の形に膨らんだ布団。
銀時は何も覚えていなかった。
○○であれと望んで捲った先に見えたのは、お登勢の顔だった。
死んでも○○には知られたくない、魔の一夜。