第1章 一度見た世界
「母さんの足は瓦礫に潰されてここから出られたとしても走れない…分かるだろ?」
その言葉は、その残酷な現実は幼いエレンとミカサでも分かった。
カルラは瓦礫の下から出られても足手まといになるだけの自分を巨人に見つかって食べられてしまうかもしれないリスクを賭けてまで子供達に助けてもらうつもりはないと覚悟を決めていた。
「オレが担いで走るよ‼︎」
「……‼︎」
しかし、エレンはそれでも諦められなかった。
エレン・イェーガーという少年は無理だからと母親を見捨てられる少年ではない。
「どうしていつも母さんの言うことを聞かないの!最期くらい言うこと聞いてよ‼︎」
「ミカサ‼︎」
「ヤダ…イヤダ…」
ミカサはついに瓦礫から手を離し、涙を流した。
最初から分かっていた。
自分達の力だけではどうにもならない事を……。
例えエレナが加わったとしてもカルラを助ける事は出来ないと理解していた。
そんなエレン達の元へ一体の巨人が地鳴りを響かせながらすぐ側まで迫って来ていた。
「皆んな逃げて‼︎このままじゃ4人とも…‼︎」
絶望に打ちひしがれる三人の前にある一人の男が現れる。
それはよくエレン達をからかっては楽しんでいたハンネスだった。
「ハンネスさん‼︎」
「待って‼︎戦ってはダメ‼︎子供たちを連れて…逃げて‼︎」
「見くびってもらっちゃ困るぜカルラ‼︎オレはこの巨人をぶっ殺してきっちり4人とも助ける!」
ハンネスは子供たちを連れて逃げてほしいとお願いするカルラを無視して巨人へと立ち向かった。が────、
人間のような姿にして歪な表情、そして圧倒的な大きさにハンネスは今の自分では敵わない相手だと一瞬で悟った。
それもその筈。
彼が所属するのは壁内を守る駐屯兵団であって巨人と対峙する調査兵団ではない。
それに訓練兵時代に巨人の的を使った実技はしていても実際に巨人と戦った事は一度としてない。
ハンネスは抜いた刃を仕舞うと急いでエレンとミカサを抱えた。
彼は五人とも死ぬかもしれないリスクを取るよりも四人が確実に助かる道を選んだのだ。