第1章 一度見た世界
人の叫び声が絶えず響く。
街中は既に地獄のようだった。
無数の飛び散った破片は民家を押し潰し、人をも押し潰した。
運悪く破片に頭を押しつぶされ絶命した夫を見て立ち尽くす妻とその子供らしき人。
家が崩れ、それに押し潰された人々。
見渡す限り目に映る全てが地獄に見えた。
「ハッ……‼︎────…クソッ‼︎」
エレンはそんな惨劇を見て脳内に浮かんだ悪い予感を振り払うように無我夢中で走り続ける。
「母さん‼︎」
息も絶え絶えに叫びながら見慣れた通路の壁を曲がるとそこにあったのは、エレンが正に恐れていた光景…飛び散った壁の破片によって潰された我が家だった。
顔を真っ青にしたエレンとミカサは直ぐさまカルラが下敷きになっているかもしれない大きな瓦礫を一つ一つ取り除き始めた。
「母さん…?」
悪い予感が的中してしまった。
カルラはその大きな瓦礫の下で埋もれ、倒れていた。
「……エレンかい?」
幸いにも意識のあったカルラにハッとしたエレンは急いで瓦礫を退かし始めた。
「ミカサ!そっちを持て‼︎この柱をどかすぞ‼︎」
必死に瓦礫を退かそうとする二人の姿をエレナはただただ虚な目で見ていた。
どうしてあんなに必死になって頑張っているんだろう。
どうして助けられると信じているんだろう。
どうして諦めないんだろう。
どうして?
「行くぞ‼︎せーの‼︎」
……どうして私はこんな事を考えているのだろう。
どうして───、
「何してんだよ‼︎エレナも手伝え‼︎」
エレナにそう叫ぶエレンの声すら今の彼女には届かなかった。
その時、巨人の雄叫びと地響きが鳴り響いた。
巨人はもう間近に迫って来ていた。
それは…この場に巨人が居合わせてしまっても可笑しくはないという状況を示しているという事実。
「ミカサ急げ‼︎エレナも早く‼︎」
「分かってる‼︎」
エレンとミカサは必死に瓦礫を持ち上げるが大人ですら数人いなければ持ち上げられない瓦礫をましてや子供二人の力だけでは到底持ち上げられる物ではなかった。
「エレン‼︎エレナとミカサを連れて逃げなさい‼︎早く‼︎」
「逃げたいよオレも‼︎早く出てくれよ‼︎早く‼︎一緒に逃げよう‼︎」