第5章 同じ。
そのまま手を引っ張られ歩き出す。
後ろから視線をしばらく感じたが、後ろは振り返ろうと思わなかった。
しばらく手を引かれ歩いていると、宏光は急に立ち止まって、私を見た。
「ゆりさん、大丈夫?」
そう言って頭を撫でる。
そういえば、さっき。
「さっき、ゆり、って呼んだ…」
「あぁ、そうだね。嫌だった?」
嫌じゃなかった、むしろ自然だった。
今までの"さん"付けの方が違和感を感じるほど。
「これから、ゆり、って呼んでいいかな?」
いいに決まってる。
こくん、と頷くと、宏光は嬉しそうな表情をした。
その笑顔に、私も嬉しくなる。
3年も付き合った元彼と、彼を奪った今の彼女を見るのは辛いはずなのに。
宏光の笑顔を見ると、どうでもよくなる自分が居た。
これは、きっと。
「ゆり、」
「え?」
宏光は、真剣な顔で。
私は、その表情に見とれる。
「好きだよ」
私も、同じ気持ちだからだ。
END