第9章 甘い約束
少ししばらくして、月の位置が高くなってきた頃。
資料は見事に、床に散乱してしまっていた。
「・・・・・・ミルカ・・・?」
「ごっ、ごめんなさい・・・・・・こういう作業は苦手なんです・・・」
しかも窓から入ってきた風が時々資料などを空へ舞い上がらせてしまうものだから、ただでさえ苦手な作業がもっと辛いものに思えてしまう。
彼の役に立てず下を向いて涙目になる私を見て、ジャーファルさんは少しおろおろとしていた。
しかし、何かを思いついたような顔をして、私の背後に回ってきた。
「・・・まったくしょうがないですねえ。ほら、そういう時は白い紙に分類名を書いておいて、風で飛ばぬよう石で押さえておくんです。それから分けていけば楽なはずですよ。ほら、こうやって」
彼はそう言って後ろから私の手を取り、包み込むようにしながら私の手を操り分類分けを始めた。
私は彼の言葉など耳に入らなかった。だって、今すごく・・・近い場所に彼がいて、心臓が飛び出そうなくらいになっていて、頭もぐるぐるだったから。
私の手に、彼の手が重なっていて。私の耳に、彼の吐息がかかっていて。
恥ずかしくて逃げたいくらいだけど、出来るはずがないほどの距離になっているのに冷静でいられるわけがない。
「・・・・・・おーい、ミルカ・・・?」
彼はずっと私に話しかけていたようで、返事のない私に向けて怒気を秘めた声で名前を呼んだ。
「あっ・・・・・・ごめんなさい!」
「謝らなくていいですから、まったくもう・・・・・・・・・・・・
そんなに可愛い顔されたら、仕事する気なんて無くなるじゃないですか」
彼はそう言って、私をひょいと抱き上げた。
「きゃっ!?」
急に視界が広がったため驚いて彼の官服を掴むが、
彼は私を少し乱暴に寝台へ下ろし、手を服から外して私の頭の上へと持ってきた。
・・・これってもしかして・・・・・・・・・組み敷かれてる!?
「じゃっ・・・ジャーファル、さん・・・?」
「・・・もう我慢出来ない。貴女が泣き喚こうが嫌がろうが、今夜は絶対に離しません。いいですね・・・?」
妖艶な彼の声は囁き声のようで、私は媚薬を飲んだような気分になっていた。
勿論断る気は無いので、私は小さく返事をして、彼に身を預けた。