第39章 ホテルの鬼
杏寿郎はそれをすぐに止めようとしたが、皆の視線が集まり 更に桜が妖艶とも言える様な余裕のある笑みを浮かべていた為 思わず目を見張った。
そして踏み止まって冷静になると桜の意思を汲んで桜に注意を割きつつも怪しい気配を探った。
(うーーーん…出てきたものの……何の曲がいいかな………。とにかく触ってないと……、)
桜は迷いながら場を繋ぐように鍵盤を右手だけで適当な旋律を弾きながら左から右へ上っていき、上り終わると次は両手で交互に弾きながら左へ下がっていった。
(…なにか……そうだ、杏寿郎さん……………、)
ふと浮かんだ婚約者と曲の題名に桜は目を細めて微笑みながら低い単音をポーンと弾く。
その笑みに男性客が頬を染めた。
杏寿郎の前ではすぐに赤くなる桜は小さい頃からの積み重ねと部活で鍛えられた為、ステージには慣れていた。
そしてそれは曲によってはリラックス出来る程である。
(リストの…愛の夢、第三番。この題名も "約束" にしよう……。)
桜はそう思うと愛おしい人を想いながら弾き始めた。