第39章 ホテルの鬼
「きょ…杏寿郎さん…っ、いきなり過ぎますよ…!」
桜が少し困った様な声を出すと杏寿郎は前を見据えたまま低い声を出す。
杏「だが間に合わなくなる。」
「……え?」
桜が鬼についてかと思った瞬間、ケンタの叫ぶ声が聞こえた。
杏「すまない、返してくれ!!迷いに迷ったが君の言う通り時間がない、人の命が掛かっている!!!寸法を測って仕立てる時間などない!!俺のは適当で構わないが女性の物はそうはいかないのであろう!!!公私混同して申し訳無かった!!」
「そ、そのドレス使う気ですか…!?私のも既製品で十ぶ、」
杏「行くぞ!!!」
――――――
女「素敵な旦那様ですね。」
「……は、ぃ…………。」
杏寿郎が洋服を選んでいる間、着物に身を包んでいた桜は女性の従業員に捕まっていた。
桜が真っ赤になって俯いている様子を見て杏寿郎は眉を寄せる。
杏「あの女性は妻に何をしているんだ。俺の前以外であの様に赤くなる事など滅多に無いのだが…。」
男「聞いてみてあげて下さい。」
服を選んでいた初老の男性が状況を察してそう言うと杏寿郎は頷く。