第39章 ホテルの鬼
いつしか来なくなった蜜璃にどこか安心していた槇寿郎は一度完全に固まった。
そのやり取りを横目で見ながら桜は千寿郎に近寄る。
「蜜璃ちゃんが千寿郎くんの事大好きだって言ってたよ。また会いたいって!」
千「……それ、柱合会議の後にも聞きましたよ。」
千寿郎がそう赤くなりながら眉尻を下げると桜はにこっと笑って優しく頭を撫でる。
「ちゃんと言われた分だけ伝えてるんだよ。蜜璃ちゃんの鴉…麗ちゃんが伝言してくれるの。私が文字読めないって言ったら麗ちゃんにたくさん言葉を覚えさせて飛ばしてくれるようになってね…、」
そうして桜と千寿郎が杏寿郎を完全に自由にさせてしまった為、二人が気が付いた頃には槇寿郎はすっかり窶れてしまっていた。
――――――
「洋服かあ…困りましたね…。でも早く調達して向かわないと…ホテルの室内にいるのなら昼の今でも人が襲われてしまっているかもしれないですよね…。」
杏「………うむ。」
杏寿郎はそう低い意志の強い声を出して頷くと桜を横抱きにしてからバッと槇寿郎に向き直った。
杏「行って参ります!!!」
「…えっ!?い、いってきます!!」
走り出す杏寿郎の腕の中で桜が急いで手を振ると既に小さくなってしまった千寿郎の影が手を振っている様な気がした。