第38章 ※分かった事、煉獄家のお出掛け
杏「……やはり似合うな。」
それは呉服屋で仕立ててもらった余所行きの着物だった。
『杏寿郎の隣に似合うもの』という要望から呉服屋の奥さんは杏寿郎の髪色を思い浮かべながら 敢えて反対の寒色を選ぶか、暖色を選ぶかでとても悩んだ。
しかし結局仕立て上がった着物は暖色でも寒色でもなく、白地に淡い紫の蘭が咲くシンプルでとても上品な物だった。
帯揚げや帯締めは桃色に近い紫色で統一されており 全体で見ると年相応な愛らしい色合いになっている。
「ありがとうございます。」
桜が杏寿郎を見上げて礼を言うと千寿郎も側に寄って微笑む。
「僕もとってもお綺麗だと思います。」
「ありがとう。千寿郎くんいつも綺麗って言ってくれるよね。あまり言われないからすごーく嬉しい。」
一方、槇寿郎はその後ろ姿に亡き妻を重ねて少し目を細めていたが パッと桜の顔が見えると妻とは似つかない無防備な笑顔に小さく肩を揺らした。
槇「……行くぞ。」
―――
一行は昼前の道を行きながら鬼の話は一切出さず、他愛もない "好きな物" についての話をした。
しかしお題が "食べ物" になった途端に杏寿郎の挙げる量が増えてしまい 千寿郎と槇寿郎がげっそりとしてきた頃、やっと温泉旅館 一ノ瀬屋が見えてきた。