第31章 ※歩み寄ること
「むぐ…、」
桜は杏寿郎の手首を掴んで鼻を解放させると、そのまま大きな熱い手を確かめるように強く握り 眉尻を下げて微笑んだ。
「ごめんなさい。ほっとしちゃって…。さっきはみのるを殺した男の人が言った言葉と頼勇さんが言った言葉が重なってしまって頭が真っ白になっちゃったんです。」
杏「そうか…。」
杏寿郎が腑に落ちた顔をして再び桜の頬に手を当てると、頼勇の大きな声と水琴の泣く声が聞こえてきた。
尋常じゃない声色を聞いて屋敷中の者がバタバタと大きな足音を立てる。
「……………良かった……。」
杏「ああ。」
杏寿郎は茂雄と隆史に鬼が水琴の弟であった事を黙っておいて欲しいとお願いしていた。
一度十二鬼月にまでなった鬼が藤の花の家紋の家と縁のある者だったとわざわざ明らかにする事に利点があるとは思えなかったからだ。
茂雄と隆史は鬼の哀れな最期を見た為か素直に黙って頷いた。
「…鬼と水琴さんはどんな関係だったのでしょう…。お互いに庇うなんて…。」
杏「どうしても知りたければ家に帰ってから話そう。ここの者に聞かれたくない。…それより君に聞きたいことがある。」
そう言われると桜は少し表情を曇らせて喉をこくりと鳴らした。