第31章 ※歩み寄ること
「…んッ!!」
それを見破られ桜は頼勇にまたもや口を塞がれた。
見ると頼勇は酷く辛そうに泣いていた。
(不憫だと思う…。私も杏寿郎さんが行方知れずになった後にそっくりな人が目の前に現れたら酷く混乱するもの…。でも、私は水琴さんじゃない……。)
桜は眉尻を下げながらも再び頼勇の手首を優しく掴む。
頼勇は桜の穏やかな目を見て悩んだ末にまた手を退かした。
頼「頼む…。もう塞がないから煉獄様を呼ばないでくれ…。君と他の男が一緒にいるのを見るのは…耐えられない……。」
その懇願する声に桜は目を伏せる。
(頼勇さんの気持ちも分かる。でも二人きりになる事を許せば杏寿郎さんの気持ちを無視する事になる。あの人には常に誠実でありたい…。)
そう思うと桜は頼勇の顔を意志の強い目で見上げた。
「頼勇さん…それは杏寿郎さんも巻き込む願いです。杏寿郎さんを悲しませる事は少しもしたくないんです…。だから…、」
―――ドサッ
頼「お願いだ。その口で他の男の名を呼ばないでくれ。」