第31章 ※歩み寄ること
頼「頼む…。少し話をさせてくれ…。」
その真剣な顔に桜は眉尻を下げる。
そして優しく頼勇の手を退かすと静かな声を出した。
「今は夜で、ここには二人しかいなくて、お布団もあります。不向きな場ではないでしょうか…。それに…、話ではなく水琴さんの面影を求めてこちらへ来たのでは…?」
図星を突かれると頼勇も眉尻を下げて辛そうな顔になる。
頼「…………た、頼む。君が記憶を失っているとしか思えないんだ。俺を、呼んでくれ…また…あの頃みたいに…。どうか俺を思い出してくれ……。」
そう言いながら頼勇は酷く優しく、そして大事そうに桜を抱き締めた。
桜はその優しさを痛いほど感じ、心苦しく思いながらも頼勇を押し返そうとする。
「………え…?」
(こ、こんなにやつれてボロボロなのに動かない…。杏寿郎さんだけじゃなくて、男の人の力って皆こんなに強いの……?)
途端に余裕を失くした桜の背中に冷や汗が流れた。
しかし すぐに冷静になると再び杏寿郎を呼ぼうと口を開く。