第31章 ※歩み寄ること
頼「ああ。膳を運んだ者に君がいないと聞いて…探し回ったんだが、すれ違いになるかもしれないと思って今はここに座っていたんだ。」
「ご迷惑を…本当にすみません…!!あ、あと…私は水琴さんではなくて…桜です……。」
言いにくい事ではあったが 訂正せずにいられずそう言うと、頼勇は思いの外落ち着いた声を出した。
頼「ああ、その事で話があるんだ。ちゃんと話をしよう。…部屋へ入っても良いか……?」
「すみません…。もう遅い時間ですし、部屋に二人きりは…杏寿郎さんが良い顔をしないと思うので…。」
それを聞くと頼勇は "そうか" と短く答えて部屋の前から去ってしまった。
拍子抜けする程呆気なく去っていく足音を聞くと桜は静かに息を吐く。
そして胸に意識を集中させた。
(杏寿郎さん、茂雄さん、隆史さん、水琴さん……。)
「四人で無事に帰って来れますように……。」
そう呟くと無事を報せるように胸が温かくなり、桜はパッと顔を明るくさせた後少し涙を滲ませながら箸を進めた。
―――
「………遅いな…。」
杏寿郎達は弟を喪ってパニックを起こすであろう水琴を起こさないように速度を落として帰っていた。
それを知らない桜は杏寿郎に言われた通り布団の上に座って帰りを待っていた。