第30章 弟と姉の絆
水「弘人は人を食べたりなんてしません。貴方達のことも殺さなかったでしょう?鬼なんかじゃ、」
茂「今月、ここから離れたいくつもの街で貴女ぐらいの歳の女性が合わせて二十人以上行方知れずになっています。目撃者によると、連れ去ったのは十五歳程の牙を生やした少年だったと。向かった方角も着物の色も証言と一致しています。」
隆「場所を散らして上手くやってたつもりか?それに二十人どころじゃないよな。その目…元十二鬼月だ。女ばかりの偏食になる前は別の所でもっと人を喰ってる。今月になって何で女ばっか喰うようになったんだ?あんたもあんたですよ。鬼を庇うなんて…本気で心当たりないって言ってるんすか。」
それを聞くと水琴は小さく震えた後自身を落ち着かせるように大きく息を吐いて肩の力を抜いた。
そして鬼をきつく抱き締めると三人を睨みつける。
水「おかしいわ!最近になって変わった事といえばこの子の様子が穏やかになった事ぐらいだもの。風貌がおかしくなった事は分かってます。だけどこの子は鬼じゃない…!人を食べたりなんてしません!弟は昔からやさし、く…て………、」
一週間、茂雄と隆史に食事を止められてきた鬼は強い自制心で姉を食べまいとしてきた。
しかし目と鼻の先に肉がくれば食いつかずにいられなかった。
杏寿郎はすかさず喰い付く前に技を繰り出そうとしたが肝心の水琴が邪魔をした。
杏「……………。」
その様子に眉を寄せるも杏寿郎は一度踏み止まる。
水琴は肩の肉を食いちぎられそうになりながらも激痛に耐え、杏寿郎達から弟を守るように背を向けて更に強く抱き締め直した。