第30章 弟と姉の絆
杏「うむ。当たりのようだな。」
自身が作った風穴を進むと光の漏れた道を見付け、杏寿郎はそう小さく呟く。
杏(鬼は水琴さんを守りに先に部屋へ行ったか。随分と大事にしているのだな。それなら水琴さんは戦いに巻き込まれて命を落とすのだろうか。水琴さんの無事を確保したら戦いの場を変えねばならないな。)
そう思いながら杏寿郎は気配を殺して部屋を覗いた。
そこにはやはり話に聞いた通りに足を固められている女が背を向けて椅子のような形の岩に腰掛けていた。
その岩にはきちんと座布団が敷かれ、女には何枚もの女物の羽織りが掛かっており、机代わりと思われる大きな岩には果物や食事をしたと思われる食器が乗っている。
女は起きていて心配そうな声を出した。
女「すごい音だったけど弘人は怪我してない?また剣士さんが来たの?絶対に殺してはだめよ。約束して…!」
鬼「分かってる。それより、新しく来た奴が強い。すぐにここを離れなくちゃ…!あんた足はまだ治っていないでしょ、早く捕まって!」
そうどこか幼い口調で言いながら鬼は女の足元の岩を崩す。
女「ありがとう…でも、あんたじゃなくて姉上って呼んでって言ってるのに。全然聞いてくれないんだから…。」
杏「姉、ということならやはり貴女が水琴さんか。」
突然話しかけられ、二人は目を大きくしてバッと杏寿郎を振り返った。
杏「うむ。やはり皆気が動転していたようだ。桜と似ていない。」