第29章 大神さまの正体と目的、暴力の訳
そう桜に縋るように見上げられると、杏寿郎も眉尻を下げてユキに目を遣る。
杏「だが、ユキは遠くへ行けないのだろう。」
「あっ…そっか……。」
落ち込む桜を見て尻尾をゆらりと揺らすと、ユキは少し得意気な声を出した。
ユ『行けるさ。信仰者が少なくともあの子達二人には付いていく事が出来る。杏寿郎は信仰してくれそうにないが、あの子達の近くに居れば手が届くだろう。』
そう言ってユキが撫でるような仕草をすると、杏寿郎は眉を寄せた。
杏「付いて来てくれるのは有り難い話だが、俺はそんなに信心が足りないのだろうか。ユキの事はしっかりと敬っているつもりだぞ。」
ユ『杏寿郎は私を "癒猫様" という存在ではなく "ユキ" として見ている。私はそちらも心地良い。気にしないでくれ。信仰者ではない相手への釣り合いの取れぬ治療も許されたのだ。何も問題はあるまい。』
その言葉に納得した顔をすると杏寿郎は笑みを作って頷き、腕の中の桜に視線を落とす。
杏「ここの家の者は皆良い人ばかりだ。藤の花に囲まれていて鬼も来ない。それに加えユキの姿を借りられるのなら安心だな!だが……、」
杏寿郎は言葉を切ると、笑みを消して桜の耳元に顔を寄せた。