第1章 神様が望んだ関係
『ありがとう。』
言葉には応えられなかったが、気持ちが嬉しくて、鼻先で桜の頬を撫で上げながらお礼を言った。
桜の祖母は熱心にここへ足を運んだが、両親は違う。
決して "癒猫様" を軽んじていた訳ではないが、忙しい毎日の中で足を運べなくなっていたのだ。
それを除けば両親は優しく素敵な人達だ。
ユ(そんな両親だ。こんな荒れた山にまだ小さい愛娘が一人で通っていることを知れば大層心配するに決まっている。)
―――そうしたら、この子は二度とここへ来ないかもしれない。
ユ(…いや、寂しく思うことなど許される筈がない。来なくなるのならば両親に知れた方がまだましだ。)
信仰が途絶えかけているせいで、白猫の力は今はもう弱くなり神殿の近くまでしか行くことができない。
白猫はそれでも桜にここへ来ないでほしかった。
白猫は二年前、今はもう亡き祖母に付きまといながら此処へ初めて来た桜を思い出す。
自分の姿を初めて見る事ができた人の子。
揺れる毛が雪のように綺麗だと何回も撫でて "ユキ" という名をくれた。
撫でることは自分の仕事なのに…そんな事を動揺する頭で考えながらも、初めてしてもらう行為があまりにも暖かくて胸が一杯になった。
その瞬間から桜は特別な存在になりつつあった。